2019年07月09日

10秒の壁を破った選手たち

 長らく、お付き合いしてくださった方々、ありがとうございました。2作目の小説もこれで終わりです。3作目は現在執筆中なので、もう少しお待ち頂けたらと思います。


 話しは変わって、最近、陸上競技の人気が上がってきてますよね。特に、100mの選手たちの層がとっても厚くなっています。私は中学の時から陸上競技をしてたもんで、観戦するのもやるのも好きなのです。

 日本の、10秒の壁を破った選手といえば、サニブラウン選手と桐生選手。それぞれ、9秒97と9秒98。


 でも、もっといるんです。ケンブリッジ飛鳥選手も9秒98で走っているんです。更に、多田修平選手は、9秒94で駆け抜けているんです。

ただし、追い風参考記録なんですがね。


 どんな条件であっても、記録は記録。公認されるか、どうかだけ。そういう意味で言えば、桐生選手は、9秒87で走っているんです。すごい記録ですね。そういうスピードを体感しているんですから、そのうち、本当に公認される風で、走れるようになるような気がします。


 今年の世界陸上は、メダルを取る選手が出てきそうな気がして、今から、とっても楽しみです。



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2019年07月08日

小説 「よく眠れた朝には」 第三十三話(最終回)

 実家に向かう日、子供たちは大はしゃぎだった。初めて電車に乗る、初めて新幹線に乗る、そうこうしているうちに、実家に着いた。出迎えてくれたお袋は、いったい誰を連れてきたの?という顔をしていたが、多恵が手を握って挨拶すると、とたんに記憶がよみがえったようで、多恵さん、多恵さんと抱きしめて喜んでいた。

「で、多恵さん、この子達は?」
「慎二さんのお子様です。」
「ええっ、だって、この前結婚したばかりでしょ?」
「それからもうだいぶ経つんですよ。」
「いったいどうなっているの?」
「お袋、くわしくは親父と一緒の時に話するよ。」

 親父、お袋の前で、改めてオレの家族を紹介した。
「改めて、オレの家族を紹介するよ。」
「妻の多恵と長女の恵美7歳、次女の歩美6歳、先日、多恵を紹介したばかりなのに、今度はこの子たちが存在しているんだかね。」
「オレはもう42歳だ。江戸での生活は、また5年、2年とプラスされたんだ。20歳だった多恵も、今は30歳になったんだ。不思議なもんだろ?今の世界ではそんなに経ってないのにね。」
「前に、親父に言ったよね、もしかしたら、親父の年を追い越して帰ってくるかもしれないって。」
「オレにもいったいどうして、こんなことになっていくのかわからない。」
「オレは江戸でも、現代でもどちらの生活でも、多恵がそばにいるなら全然平気だ。」
「でもね、恵美はね、こちらの生活の方がいい。ご飯、いっぱい食べれるもん。」
子供目線で、恵美がそう言った。
「その通りだね。暖かい部屋、暖かい服、暖かい布団、暖かい食事・・・確かにこちらの方が何倍もいいのかも知れない。」

「歩美もこっちのほうがいい。」
子供はかわいいことを言う。
「ただ、今度ばかりは問題がなかったとは言えないんだ。」
「2年前にオレは多恵を亡くした。」
「えっ!?どういうことなの?」
お袋は口を挟んだ。
「オレたちの住む町を敵国の侍が襲ってきたんだ。」
「ちょうどオレは狩りに出ていて、いなかったんだが、その間に侍は多恵を焼き、切り殺したんだ。」
「でも、ここにいるじゃない。」
「江戸の世界では、多恵は亡くなって、長屋ごと焼かれて、土葬されたんだ。」
「でも、こちらへ帰ったとき、多恵は寸でのところで、現代に飛ばされていたことがわかった。」
「オレも子供たちも、それから2年後に同じように侍に切り殺されたところで、現代に帰ってきたんだ。」
「そこに多恵がいた。多恵の話では、多恵がこの世界に来て、翌日にオレたちが来たとのことなんだ。」

 そこまで、黙って聞いていた親父がこう言った。
「だけど、前に確か、江戸時代では怪我しないって言ってなかったか?」
「だが、今度の江戸ではそうではなかったんだ。だから、大怪我とか、死ぬようなことにはならないように、結構注意してたんだ。」
「本当に不思議な話だな。私たちにとっては、かわいい孫が二人もできてとってもうれしいのだが、慎二と多恵さんが亡くなるというような危険な時代には行ってほしくない。」
「でも、こればっかりはどうしようもない。どんな人生が待ち受けているのか、わからないんだ。」

「恵美ちゃんも、歩美ちゃんも、こちらにいらっしゃい。」
お袋は二人を呼び寄せ、抱きしめると、
「あっちにおいしいもんあるよ。おばあちゃんと食べに行こう。」
「ほんと!行く。」
子供たちは、口々にそう言って、お袋について行った。

「実は、慎二に話していないことがある。」
親父は静かに口を開いた。
「私も過去の世界へ行ったことがある。」

「えっ!?」
「今まで黙っていて、申し訳ない。」
「我が家は代々、家族のうち、誰かが過去に行く能力があるようなのだ。」
「つまり、私だけではなく、おじいさんの代でも同じことが起こっている。」
「そんな話、初めて聞いたよ。」
「孝一には、そんなことが起こらなかったから黙っていたが、おまえがそんなに何度も過去に行くことになるとは思わなかったから。」
「代々、そんなことがあったなんて。」
「そうだ。でも、そんなことが起こらなかった代もあったようなのだ。」
「親父はいつ頃、過去に行ったん?」
「私は丁度20歳の頃、まさに戦国時代へ行ってきた。」
「そこで何年くらいいたの?」
「5年近く行ってたよ。でも、こちらに帰ってきたときは、1日しか経っていなかった。」
「やはり、同じなんだ。何回、行ったの?」
「2回だ。1回目はどういうわけだか、キズを負うことはなかったが、2回目はキズを負うようになった。だが、おまえのように3回もいくことはなかったよ。」
「そうだったのか。」

 オレはふと思った。
「もしかして、お袋は・・・」
「おまえの思っている通りだ。おかあさんは戦国時代から来たんだよ。」
「そうだったのか。どうりで、多恵に優しいと思ったよ。」
「お母様も、私と同じなんですか?」
多恵も驚いていた。
「そうよ。だから、よく分かるのよ。」
「そうだったのですか!」

 ということは、オレは現代人と過去人との混血ということになる。もしかして、親父もか?
「もしかして、おじいさん夫婦もそうだったんですか?」
「ああ、その通りだ。」

 なんということだ。オレの家族は代々、過去の女性と結婚していたのだ。だけど、それでよく成り立っているものだ。この世はどうなっているんだろう。この世には、不可解なことがないわけじゃないから、これも不可解なこととして、受け入れていく必要があるんだろうか。そのうち、オレの子孫もまた、同じような運命をたどっていくのかも知れない。

 だけど、過去と現代を行ったり来たりしたオレは・・・多恵は・・・いったい何歳になるんだろう?今の西暦通りなら、オレはまだ28歳ということになる。本当は40年以上、生きてきたはずだけど、不思議と鏡に映った自分は、そんな年には見えない。多恵だってそうだ。でも、子供たちは年相応だ。でも、恵美の年を考えれば、オレが21歳の時の子供になる。でもまあ、そんなことはあんまり気にしないでおこう。世の中はいつでも不可解なことが多いのだから。

(おわり)
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2019年07月07日

小説 「よく眠れた朝には」 第三十ニ話

「旦那様、起きて下さい。」
タエの声が聞こえる。天国に来たようだ。オレは眩い光を感じ、ゆっくりと目を開けた。ああ、やっぱり、笑顔のタエがいる。オレの両脇には娘たちもいる。みんなこっちの世界に来てしまったようだな。

「旦那様、旦那様の世界に戻ってきましたよ。」
えっ?そうなのか?今度はしっかり、目を見開き、周りを見渡した。ここは、オレの部屋だ。でも、なんでタエもいる?
「タエは2年前の侍の襲撃で殺されたはずでは?」
「私ももうだめだと思ったら、ここに来たんです。でも、来たのは私一人でした。恵美も歩美もいなかったので、とても心配していました。」
「オレたちは、それからどのくらいでここに来た?」
「1日です。昨日、私はここに来ましたが、今日は旦那様が娘たちを連れてきてくださいました。」
「そうなのか。タエこっちにおいで。」
オレはタエを抱きしめた。生きていてくれた。それだけで十分だ。また、涙があふれてくる。
「旦那様?」
「最近、涙がよく出る。」
「そうなんですか?」
タエは微笑んだ。そして、急にびっくりしたようにこう言った。
「恵美も歩美も、大きくなってる!」
「タエが先にこの世界に行ってから、2年が経っているからね。恵美は7歳、歩美は6歳になったんだよ。」

 恵美と歩美が目を覚ました。そして、タエがいることにびっくりした。
「母上様、生きておられたのですか?」
「母上様、会いとうございました。」
ふたりともタエに抱き着いて、ワンワン泣き出した。
「私には1日のことなのに、二人には2年ものことなんですね。」

 オレは娘二人を風呂に入れた。さっぱりして出てきた娘たちを、タエはタオルで拭いてくれた。着るものは、タエが着ていた服を二人に着せてくれたが、ちょっぴり大きかったみたいだ。でも、部屋着だからいいとするか。

 恵美も歩美も何から何まで興味深々で、でも、オレやタエから聞いていたことを目の当たりにして、とても驚いていた。本当に言っていた通りだったのだ。暖かい部屋、暖かい衣服、暖かいたくさんのおいしい食事。タエはこちらのことはすべて知っているので、手際よくやってくれる。

 ゆっくりくつろぐと、オレは二人の娘にこう言った。
「しばらくは、この世界になれるために一生懸命に勉強しなければならないんだよ。」
「はい、父上様。」
「この世界では父上様とは言わないんだ。お父様というんだ。母上様は、お母様だよ。」
「はい、父上様・・・あっ、お父様。」
多恵もニコニコして聞いている。
「おまえたちの名前は、山本恵美、山本歩美だ。」
オレは紙に書いて見せた。
「で、私は山本慎二、多恵は山本多恵だ。」
これも、しっかり書いて見せた。
「まずは、これを書く練習しなさい。」
「はい。」

 子供たちは、現代の衣服をとても珍しがっており、また、その着心地にとても感動していた。また、タエのこしらえた料理に、とてもびっくりして、口々にこう言った。
「こんなにたくさん食べていいの?」
「この白いご飯、何か特別の日だから?」
「毎日、こんなに食べれるの?」
「とってもおいしい。」
「江戸の時代より、こっちがいい。」

 そう言っている子供たちを見て、微笑んでいるタエを見て、オレもうれしくなっていた。さあ、これから、子供たちにこの時代に慣れてもらわないといけない。百聞は一見にしかずだ。この言葉は江戸でも言われていたが、長く現代でも言われている言葉だ。お風呂や衣服、食事でかなりびっくりしていたが、外に出たらどうなることやら。だが、出る前に注意事項がある。

「外へでたら、絶対に手を離さないこと。必ず、お父さんか、お母さんの手をつないでいること。」

 幼稚園児に教えるように、車道と歩道の違い、車道の渡り方、歩道での自転車への注意など、気を付けなければならないことを、話した。何気なく、暮らしてきた現代だったが、こうしてみれば、注意事項はたくさんあるし、気を付けないと危険が一杯潜んでいる。タエもタエの目線で子供たちに話をしてくれていた。外から帰ってからも、子供たちの興奮は冷めやらず、寝かしつけるのが大変だった。

「多恵、またこの時代に来たけど、大丈夫かい?」
「何も問題ないです。旦那様と一緒ですので。」
「この時代、子供たちには教育を受けさせないといけないんだ。」
「どういうことでしょうか?」
「6歳から小学校と言って、6年間の教育をうけさせなければならないんだ。それから、中学校に3年、ここまでは義務教育で、絶対に親は行かせないといけないんだ。その後は高校に3年間、大学に4年間などがある。」
「そうなんですか。たくさん教育を受けさせて頂けるのですね。いい世の中です。」
「まあ、いろいろと問題は多いけどね。」
「どのような問題でしょうか?」
「勉強だけじゃなくて、教育を受ける生徒の間でいじめがあったり、教える立場の先生も間違いを犯したりする場合があるんだ。」
「以前、テレビでそのようなことを言っておりました。」
「江戸の時代では、月に1回、狩りをしてくれば生活できたが、こちらではそういうわけにはいかないから、子供たちの面倒は多恵にお願いしないといけないな。」
「承知しました。」
「いろいろと大変だけど、お願いするね。」
「はい。」

 オレは多恵との結婚式が頓挫しているので、それも気になっていた。あと、オレの実家も多分この状況が分かってくれるのかどうか、心配になっている。まずは、実家に行ってこよう。オレは、実家に電話をしておいた。どうなるかわからないけど、4人で行くと伝えた。

(つづく)

いよいよ、クライマックスへ。
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2019年07月06日

小説 「よく眠れた朝には」 第三十一話

 次の日から、オレも長屋再建に向けて、手伝うことにした。長屋なんて、なんて簡単な作りなんだ。一か月もかからない内に、できてしまった。取りあえず、親子3人で住めることになった。
当面、狩りはお休みだ。しばらく、この子たちについていてやりたかった。

 しばらくして、タエを訪ねて、一人の女がやってきた。ハルさんだった。途中でハルさんはタエが亡くなったことを聞いたが、オレと娘たちのことは知らなかったのだ。
「ハルさん、久しぶりだね。」
「あなたは誰?」
「やはり、忘れているようだね。でも、こうすれば思い出すだろう。」
オレはハルさんの手を握った。突然のことでびっくりしていたが、すぐに、思い出してくれた。

「慎さんもこちらに来ていたのね。この子達が娘さん・・・」
ハルは涙を流して、絶句した。
「申し訳ない、ハルさん。オレが狩りに行っていたばっかりに、こんなことになってしまった。」
「慎さんが悪いんじゃないわ。侍が悪いんだ。」
「また、山で生活しているって聞いていたけど。」
「昔の生活に戻っているわ。」
「父上様、この方はどなたですか?」
恵美が言った。
「母上のお姉さまだよ。」
「私、恵美と言います。よろしくお願いします。この子は歩美です。」
「よろしくね、恵美ちゃん。タエに似てる。」
「正さんはこちらの世界に来てるの?」
「いや来てないと思う。それに、今はハルさんのことを忘れているよ。」
「私がそうだったように・・・ってことね。」
「その通りだ。」

 オレたちは途中で花を摘んで、タエの土葬されているところに出かけた。ハルは線香をあげて、長いことその場に座りつくしていた。
「これからどうするの?」
「この子たちとこの町で生きていくよ。」
「それじゃ、顔見に、たまに山から下りてくるわね。」
「ああ、そうしてくれるうれしいよ。」
「叔母様、また来て下さいね。」
「また、来るわね。」
ハルはそう言って、山に帰って行った。

 恵美は5歳といえども、4歳の歩美の面倒をしっかり見てくれる。1つしか違わないのに、頭が下がる。これもタエがしっかり子育てしてくれたからなんだろう。そう思うと、また、涙がこぼれてしまう。オレは少々、泣き虫になってしまったようだ。

 あれから、2年が過ぎた。恵美も7歳、歩美も6歳だ。オレは、二人とも現代なら小学生なんだからと、読み書きソロバンじゃないけど、ひらがな、カタカナ、漢字、計算など、少しづつ二人に教えていった。ここでは学校もないから、オレからしか、知識を吸収できないしな。狩りの時は、隣の奥さんに二人をお願いして、行ってくるけど、いつも気が気じゃない。行っている間に襲われたらと思うと、心配で心配で、2日くらいで帰ってくることが多かった。だから、獲物は少ない。

 やはり、今の世は江戸時代。何が起こるかわからない。特にこんな町の人たちには政治なんてことは、わかりっこない。

 突然、夜襲を受けた。戦の恰好をした侍たちにまたもや、襲われたのだ。せっかく、みんなで再建した長屋も火の手が上がった。必要なものを持って、子供たちの手を引いて、逃げ出さなくてはならなかった。

 オレたちの行く手には、侍どもが待っていた。こいつら、敵国の侍だな。そう思った瞬間に、先頭を走っていた町人が切り殺された。まずい。二人の娘の手を握って、方向転換したが、そこにも侍がいた。なんで、こんな無抵抗なオレたちを待ち構えているんだ。オレは武器など持っていない。せめて、鉄パイプでもあればなんとかなったのかも知れないが、万事休すだ。三方向から侍が刀を切り下ろしてきた。オレは娘たちを抱きかかえ、丸くなった。これで、オレも人生も終わりなのか。

(つづく)
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2019年07月05日

小説 「よく眠れた朝には」 第三十話

「タエ、ハルさんはどうしている?」
ハルのことを聞かれたタエは顔を曇らせた。やはり、山賊と一緒に山へ行ってしまったのだという。
「正さまはこの時代に来られていないのでしょうか?」
「どうやら、そのようなんだ。」
「ところで、タエがここに戻って、オレが来るまでに、どのくらいの月日が経ったのかな?」
「1年ほどになります。」
「そうか。オレは向こうの世界で、2年もこの世界へ来るのを待ったのだ。」
「そんなにですか?」
「そうだ。タエに会いたくてたまらなかったよ。」
「旦那様がそれほどまでに、想って下さっていたのに、私は・・・」
「これは、仕方のないことなのだ。でも、ちゃんと思い出してくれたじゃないか。」
「でも・・・」
タエは自分が忘れてしまったことをかなり悔やんでいたようだった。でも、もう過去のことだ。今はちゃんとオレの妻なのだから。

 それからしばらく経ったある日のこと、突然、タエはこんなことを言った。
「旦那様。」
「んっ?なんだい?」
「タエは旦那様の御子を産みとうございます。」

 いつかはそう言われると思っていたが、いつまた時代を飛び越えるかわからない状況で、そんなことは難しいと思っていた。それでも、タエはどうしてもと言う。オレは悩んだ。タエはまだ若い。もう数年先でも問題はない。でも、この時代では遅すぎるくらいの年齢なのかもしれない。
オレはタエの希望を叶えることにした。ただ、オレはこんな時に時代を行き来することが起きないことだけを祈っていた。

 月日は巡り、タエは妊娠し、女の子を産んでくれた。よくがんばったものだ。オレからしたら、からだの小さいタエが、この時代、そんなに栄養をとれない状況なのに、本当によく頑張ってくれたと思った。

 タエはオレに名前を付けてほしいと言った。江戸ではない現代の名前がいいと言う。オレは恵美と書いて、タエに見せた。
「めぐみと言うんだよ。いろんなことに恵まれて美しい性格の女の子に育ってほしいんだ。」
「めぐみ。いい名です。ありがとうございます。」

 次の年には、二人目の女の子が生まれた。この子には歩美(あゆみ)と名づけた。彼女たちは、元気いっぱい育ってくれた。タエはしっかり子育てもこなしてくれる。あっという間に、5年が過ぎた。

 恵美5歳、歩美4歳、家族4人の生活を、オレはこの江戸の時代で送っている。普通に生活しておれば、何不自由もなく、なんとかなるものだ。自給自足に近い生活だったが、それなりに楽しいもんだ。このままの人生でもオレは何も文句はない。タエもまた、そう思っている。例え、現代に行ったとしても、それはそれで問題なく順応できる家族だと思う。

 オレは子供たちに、もう一つの世界について話して聞かせている。いずれ、そんな時代になっていくけど、今は今の世界のルールに則ってやっていくことが必要なんだ。でも、遠い未来はこんなふうになるんだという夢を思い描くのもいいと思っている。それに、子供たちの理解力にはびっくりする。見たこともないそんな世界のことも、それなりに理解する。なにより、興味のつきることがない。きっと、素敵な女性に成長していくのだろう。

 ある日、いつものように、オレは狩りに出かけた。だいたい数日で帰って来れる。だが、今回はうまく罠を仕掛けたつもりでも、なかなか罠には掛からなかった。ついに数日どころか、10日ほどかかって、ようやくイノシシを一頭、狩ることができた。その場で解体し、持ち運びしやすい大きさに切り、帰路についた。

 町に近づくと、様子がおかしい。焦げ臭い匂いで充満している。町の知り合いがオレを見かけ、声をかけてきた。
「慎さん、えらいこっちゃで。」
「どうしたんだ?」
「敵国の侍が大勢きて、火を放ったんや。」
「なんだと。で、みんなは無事なのか?」
「言いにくいんだが、タエさんが・・・」
「タエがどうしたと言うんだ?」
「火をつけられ、切り殺された。」
なんでそんなことに!
「子供たちは?」
「二人とも隣の奥さんが面倒を見てくれている。」

 オレは大急ぎで、長屋の隣の奥さんがいるという場所に向かった。
「あ、慎さん。」
「父上さま、母上さまが、母上さまが、・・・」
恵美が泣きはらした顔で、オレを見つけ、抱きついてきた。

 いったい、タエが何をしたというのだ。不条理なことがまかり通ることは、十分分かっていたが、本当にそんなことに巻き込まれるなんて。
「タエは今どこに?」
「焼けちまった長屋の中で、遺体で見つかってみんなで弔ったよ。」
「どこに埋めたんだ?」
オレは隣の奥さんに案内してもらい、土葬されたタエのところへ行った。

「ここに母上様が・・・」
埋められたところには、花が添えてあった。恵美と歩美が、一生懸命、花を摘んでくれたのだろう。まだ、こんな小さい子供がいる母親を、よくも平気で火を付け、切り殺すなんて、なんて残忍なことをするんだ。

 オレは子供の前だから気丈にしていたつもりだったが、思わず、涙があふれてしまった。現代だって、人殺しはある。でも、こんなむごい殺し方をされるなんて、タエがあまりにかわいそうすぎるだろ。本当にタエが何をしたって言うんだ?残されたこの子たちが何をしたんだ?オレの頭の中は、憎悪と悲しみでわけがわからない状況になっている。母親を亡くしたこの子たちが、あまりにかわいそう過ぎる。

 ようやく、冷静を取り戻したオレは、長屋をなくしたみんなにイノシシを振る舞った。調理は長屋の女衆がやってくれた。今はなんとか、雨がしのげる屋根だけの小屋に、生き残ったみんなが肩寄せながら、生活している。オレは二人の娘を抱きしめて、今後のことを考えようとしたが、タエのことが頭から離れず、また涙があふれ出た。

「父上様、なんで泣いているの?」
町のみんなは、二人の娘たちに母親の悲惨な姿を見せなかったのだろう。特に、歩美にはまだ死ぬということが分かっていなかったのかも知れない。
「なんでもないよ。さあ、もう寝よう。」


(つづく)
posted by ツッカー at 19:53| 兵庫 ☁| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする