2019年06月23日

小説 「よく眠れた朝には」 第十八話

 それからしばらく経ったある日、オレは先輩から誘いを受けた。
「お客さんから高級レストランのコースの招待券を頂いたので、行かないか?奥さんもだよ。」
「えっ、いいんですか?」
「オレに彼女がおれば、よかったんだけど、いないからな。だから、おまえたちを招待してやる。オレも一緒だけどな。」
「なんですか、それ。」
「仕方がないやろ。3枚あんねん。」
「わかりました。せっかくの誘いですから、行きますよ。」
「いい先輩もったやろ。」
「はい、うれしいです。」
まあ、いいか。

 オレは早速、多恵に説明した。
「フランス料理のコース・・・ですか?」
「そうだよ。お箸じゃなくて、ナイフとフォークで食べるんだ。」
「そのようなこと、できるでしょうか?」
「大丈夫だよ、教えてあげるから。」
まあ、ネットでググれば、たいがいのことはわかる。それも写真付きだから、大丈夫だ。多恵もそれを見て安心したようだ。

 だが、高級レストランとなると、ドレスアップをしないといけないな。オレにはスーツがあるが、問題は多恵の方だ。ひろみに頼み込んで、衣装を借りたのだが、多恵は人前で肩を出すなんて恥ずかしいという。でも、ひろみが説得してくれたおかげで、素敵な姿に仕上がった。髪はアップにしてメイクアップ、ネックレス、イヤリングをして、オレにとっては絶世の美女だ。完全に惚れ直してしまったよ。

 時間になって、先輩がくるまで迎えにきてくれた。
「おお、多恵ちゃん、すっごくきれいだね。」
「はずかしい。」
やっぱり、慣れないらしい。男が肩を出す正装なんてないからいいけど、女はそうじゃないからね。

 三人でレストランへ向かった。先輩のくるまは10年を過ぎているので、見た目は少々淋しい。こういうときは、真新しいレンタカーでも借りてきてほしかったというのは、贅沢だろうか?

 レストランに着いて、オレは多恵をエスコートして、お店に入った。席に座るとますます多恵は緊張している。
「ねえ、多恵。夕日が海に反射してきれいだね。」
「うわぁ、ほんとですね。」
ようやく、多恵に笑みが戻った。ちょっとは落ち着いたかな。先輩もしょうもないギャグ飛ばして、笑かしてくれる。

 コース料理が運ばれてきた。最初緊張していた多恵もそのうち、慣れてきたのか、普通に食べれるようになった。オレたちはゆっくりした時間を過ごした。

 最後のデザートを頂いた後、多恵は言った。
「もう、さすがにお腹一杯です。」
男のオレも満腹だ。
「先輩、ありがとうございました。」
「なんの、なんの。どうせ、招待だもん。」
確かにそうだった。でも、多恵にはいい経験だったに違いない。
オレたちは、帰途についた。

 しばらく、走ると突然、また、あの声が聞こえたのだ。

「・・・止まって・・・」

先輩は急ブレーキを踏んだ。オレも多恵も身構えた。そこへ信号無視のトラックが突っ込んできたのだ。止まってなかったら、間違いなくオレたちは即死だった。

「あぶないところだったね。」
「でも、今の声は多恵ちゃんじゃないよね?」
オレと多恵は顔を見合わせた。先輩にも聞こえていた?
「今の声、先輩にも聞こえていたんですか?」
「聞こえてたけど、いったい、誰の声だったんだ?」

 もしかして、先輩もこれから起こるかもしれないことに、巻き込まれる一人になってしまうのかもしれないと思った。でも、そのことは、先輩に言えなかった。家に帰ってから、オレは多恵と話しをした。

「加藤様にも、あの声が聞こえていましたね。」
「そうだね、ということは彼も巻き込まれるのかもしれないね。でも、あくまでオレの想像でしかないから、そうでないかもしれない。」
「何事も起こらなければいいですね。」
「ところで、多恵は今の生活、どう思っているの?」
「とっても幸せです。」
「でももし、またあの江戸の時代に戻ったとしたら、どうする?」
「それでも、幸せです。旦那様と一緒ですもの。」
相変わらず、可愛いことを言ってくれる。

 オレたちは今日のレストランのお返しに、先輩を我が家に招待することにした。ガラッと変わって、ファーストフードでホームパーティーにすることにした。この方が気が楽だからね。食事はお取り寄せではなく、全部、多恵がチャレンジするという。ミートスパゲッティとトマトソースピザ、から揚げに、ポテトフライ、温野菜の数々。だいぶ、こちらの食事もおてのものになってきている。すごいものだ。

「ピンポーン」
「来た!」
オレは先輩を迎えた。多恵はテーブルに料理を並べている。
「きたぞ!」
「いらっしゃい。」
先輩はワインを持ってきてくれた。
「多恵ちゃんの手料理が食べれるなんて、最高だよ。」
先輩はかなり喜んでいる。

 早速、ホームパーティとなった。だけど、これは作り過ぎだぞ、多恵。三人でワインを飲みながら、食べながら、楽しい時間を過ごした。ところが・・・


(つづく)
posted by ツッカー at 19:54| 兵庫 ☁| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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