2019年06月24日

小説 「よく眠れた朝には」 第十九話

「・・・気をつけて、・・・地震・・・」

また、あの声が聞こえた。三人とも聞こえていた。とりあえず、頭をザブトンで防御し、身をかがめた。そんなことに、どんな効果があるのかわからなかったけど。

 いきなり、部屋が揺れた。オレはテレビをつけた。1分ほど、揺れたところで、速報が流れた。ここらへんは震度5だった。かなり、大きい気がした。揺れが終わって、落ち着いたオレたちは、例の声の話になった。

「あの声はいったい誰なんだろう?」
「オレたち、三人には聞こえていたよな。」
しかし、多恵はじっと黙っていた。何かを感じていたみたいだった。

「・・また、あなた様のところに来たようです・・」
「えっ、その声はまさか。」
「・・以前お世話になったものです・・」
「また、オレの中に?」
「・・どうやらそのようにございます。・・」

 突然、多恵が叫んだ。
「姉上様!」
「・・えっ、多恵なの?・・」
オレは多恵を見た。
「・・本当に多恵なの?・・」
「多恵でございます、姉上様。生きていらしたんですか?」
「・・山賊から何とか逃れることができたのです・・」
「でも、なぜ、旦那様に?」
「・・私にもわからない。旦那様って、この方が多恵の?・・」
「姉上様、この方は私の旦那様でございます。江戸の生活で私を助けてくださいました。」
「・・いったいどういうことなの?・・」

 オレと多恵は、多恵のお姉さんにこれまでの経緯を話した。多恵のお姉さんの名はハルといった。多恵はハルと、もう当然生きて会えないと思っていたので、両親のことしか話さなかったのだ。ちょっと、オレに対して後ろめたそうな感じではあったが。

「・・ああ~、眠気が・・」
そういうと、ハルさんは何も反応しなくなった。そういえば、突然、寝てしまっていたな。だが、多恵はびっくりして、しきりに姉の名を呼んだ。
「多恵、無理だよ。こうなるとハルさんは起きてこない。でも、また突然、話しかけてくるよ。」
「そうなんですね。」
「ちょっと、オレも仲間に入れてくれよ。」
先輩が寂しそうに言った。でも、先輩もじっと話を聞いていたので、すべて理解してくれていた。

 だけど、こうなったら間違いなく、タイムスリップの予兆だと思うんだ。だけど、今度は先輩も引きずり込まれる可能性がある。そのことをしっかり伝えておかなければ。
「先輩、以前オレが江戸時代に行ったのは、彼女が頭の中で話かけてきたことがきっかけなんです。」
「なるほど。」
「今回は先輩も聞こえたんですよね。ということは、先輩も引きずり込まれる可能性があるってことです。」
「えっ、ちょっと待てよ。オレもか?」
「ええ、そうです。」
「オレはお前と違って、そんなところに行っても対応できないぞ。」
「オレだって、そう思いましたよ。でも、なんとか、3年過ごせました。」
「だからと言って、そんなことが起こるとは限らないんじゃないか?」
「その通りだと思います。もしかしたら、先輩はタイムスリップしないかもしれない。でも・・・」
「でも、なんだ?」
「一応、覚悟はしておいた方がいいかと思います。」
「怖いこと言うなよ。」

 先輩が帰ったあと、
「多恵、どうやら、また江戸に戻ることになりそうだな。」
「はい、私もそのような気がしております。」
「せっかく、こちらの生活にも慣れてきているのに、ちょっと残念な気がするね。」
「旦那様のご家族とも仲良くなれたのですが、仕方ありませんね。」
「オレたちに、どんな未来が待っていようと多恵と一緒にいたいものだ。」
「うれしゅうございます。」

 多恵はいつ戻ってもいいように、例の小判をまた服に縫い込んでくれていた。オレはすぐに必要となってくる刃物を布でくるみ、どうしようかと思っていたら、多恵はリュックサックを持ってきて、そこに入れてくれた。中にはすでに飲み物、少量の食べ物も入っていた。それに、江戸から着てきた着物もだ。なんて、用意周到なんだ。多恵のシミュレーション能力はかなり高いので、驚くばかりだ。

 数日後、ゆっくり寝た日の翌朝、オレは多恵に起こされた。やはり、江戸の時代に来ていた。リュックサックも手元にきていたので、オレたちは着物に着替えて行動することにした。きれいに洗っているので、気持ちがいいもんだ。でも、裸足はやはり歩きにくい。それはそうと、またオレは体に傷ができないのだろうか?殺されないのだろうか?ちょっと気になったので、試してみた。刃物で指先を傷つけてみると、やはり、切ることができなかった。ということは、オレはまだ、この時代にずっといるわけではないのだろう。

 狩りをしていたから、オレたちの住んでいた町へのルートはなんとなくわかった。2日も歩けば、町に着いた。住んでいた長屋はまだそのままで、行ってみると知り合いはみんないた。
「お、慎さん、おかえり。タエさんも一緒か。」
「ただいま、帰りました。」
「タエさん、今日は新鮮な魚があるよ。2匹持っていきな。」
「おばさん、ありがとう。」

 オレたちが未来に行ってから、そんなに経っていなかったことがわかった。
「タエ、このリュックの中身と未来のことは、みんなに内緒だよ。」
「わかっておりますとも、旦那様。」
だけど、今回、江戸の時代に来たのは何か理由があるのかもしれない。先輩はどうなったのだろうか?飛ばされていないことを祈るだけだ。多恵にはなんとか、お姉さんに会えたらいいな。


(つづく)
posted by ツッカー at 20:24| 兵庫 ☁| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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