2019年06月25日

小説 「よく眠れた朝には」 第二十話

 もうその日から、以前のままに生活できた。オレたちにはなんの苦もないことだった。金銭の具合を見て、狩りにも出かけた。その狩りから帰ってきたら、多恵がこう言った。
「旦那様、今日、罪人が引き回れておりました。どうも、見たことのある罪人だと思ったのですが、もしかすると、加藤様かもしれません。多分ですが、未来の衣服を着ていたような気がするんです。」
「なんだって?先輩が?」
「私の見間違いならいいんですが、もし、加藤様なら明日獄門になってしまいます。」
「なんてこった。よし、一度、確認してくるよ。」
「お気を付けて。」

 マジか?先輩、やっぱり、来てたか。でも、本当にそうなのか確認しないとな。オレは牢獄のある屋敷に、例の鼠小僧に扮し、忍び込んだ。牢屋のある部屋を見つけ、天井の隙間から確認すると、本当に着物でないヤツが一人いる。かなり、やせ細ってしまっているが、先輩のような気がする。オレは、天井から牢屋に忍び込んで、固く縛られているその男の顔を間近で覗き込んだ。間違いなく、先輩だ。こんなに痩せて、苦労したんだろうな。オレは縄を解き、先輩を担いだ。先輩は気を失ったままだが、痩せていたので軽かった。紐で天井まで吊り上げ、そこから担いで屋敷を後にした。

「旦那様、やはり、加藤様でしょうか?」
「そうだ。水と何か食べ物を持ってきてくれ。」
「はい。ただ今。」
まあ、こんな右も左もわからん世界で、いままで無事だったもんだ。確かにオレみたいにサバイバル的な素養はないと思うけど、こんな状況で会えるとは思わなかった。
「先輩、水です。飲んでください。」
ようやく、気がついて、水を飲んでくれた。オレのことにもようやく、気づいてくれた。
「おお、山本。会いたかった。」
先輩は大泣きしてた。そりゃそうだ、無理もない。
「とにかく、これも食べてください。あまり、おいしくないけど、腹が膨らみます。」
「加藤様、お久振りです。」
多恵に気づいた先輩は、ここでも大泣きした。
 
 相当長いこと何も食べてなかったのだろう。でも、なんとか、食欲が満たされて、ほっとしたようだ。オレは多恵にオレの着物を一着持ってこさせ、先輩に着替えてもらった。頭は後方で結んで、ちょんまげ風にした。

「よく、ご無事で。」
「会えるとは思ってなかったよ。こんな世界では生きていけないし、もう、これでオレの人生は終わったと思った。」
「でも、先輩、どこも怪我してませんよね。」
「そうなんだ、確かに侍に切られたと思ったんだけど、どこも怪我してないんだ。」
やはり、先輩も同じだ。
「だけど、お前の言うことは、本当だったんだな。どこか、信じられない部分もあったけど、こうして自分もこの時代に来たら、信じるしかないよな。」
「よかったじゃないですか。明日、先輩は磔されて打ち首されるとこでしたよ。」
「そうなんか。恐ろしい。」
「多恵が先輩を見つけてくれなかったら、本当に死んでたかもしれませんよ。まあ、死なないと思いますが。」
「多恵ちゃん、ありがとね。」
「加藤様、本当に良かったですね。」

 やはり、先輩も起きたら、この世界に来ていたということだった。とりあえず、隣の奥さんに話を付け、長屋の空き部屋をひとつ世話してもらった。先輩は、加藤正彦という名前だったので、みんなにはマサさんと呼んでもらった。

「そりゃ、慎さんの知り合いなら、文句なんぞねえ。」
ということで、すべて簡単に長屋の住人に化けることができた。
「山本、あっ、慎さんの影響力は絶大だな。」
「まあ、3年もここに住んでましたからね。」
「ほんま、すげえもんだ。」
「で、正さん、職業は狩りということで、オレと一緒に、そのうち出掛けましょうね。」
「わかった。オレも狩りをするのね。」
「野宿もできますよ。」
「あんまり、したくないよ。虫も多いし。」
「まあ、この世界で生きていくしかないんで、がんばりましょう。」
「仕方ないな。」

 それから、オレと正さんは狩人として、月に2回、狩りに出かけた。二人なので、大量の時でも、みんな持って帰れた。適度な収入になっていたので、のんびり暮らすことができた。
「こんな生活もなれてきたら、いいもんだな。」
「正さんもそう思うでしょ。」
「ああ、あとはお前んとこみたいにいい嫁さんほしいけどな。」
「でも、町の若い女子は、みんな正さんのお嫁さんになりたくて、狙ってますよ。」
「ほんまか?」
「どこ行っても、正さんのお嫁さんのことで持ち切りですよ。」
隣の奥さんがそれを聞きつけて、やってきた。
「だから、私に任してくれたら、お好みの女の子、紹介してやるって。」
「んじゃ、頼んじゃおうかな。」
「任しとき。」
だいぶ、正さんも慣れてきたもんだ。

 今月もそろそろ狩りに出かける時期になった。オレと正さんは支度をして、狩りに出かけた。今度は新しい場所の開拓ということで、いつもとは違うルートを行くことにした。とはいうもののあんまり長く家を空けたくないので、1日で歩ける範囲にしようということになった。だが、なかなかいい場所がない。結局、2日歩くことになった。

「あの場所とさっきの場所、獣道だから罠仕掛けましょう。」
「そうだな。おまえの感はあんまり外れないから、いい獲物が獲れるだろうよ。」
そんなこんなで、罠を仕掛けて二人で食事にした。さっき川で魚を取ったので、魚を枝のくしに刺して、串焼きだ。屋外での食事は、キャンプを思い出して楽しい。今は一人ではないので、ワイワイやれる。先輩もタイムスリップに巻き込んでしまったことが申し訳ないが、今は楽しく過ごしている。

 オレたちが食事をしていると、何やら視線を感じる。多分、先輩は感じていない。オレだけが感じているようだ。その視線は一人だけじゃない気がする。数人がオレたちを伺っている。
「正さん、敵に囲まれてる。」
オレは小声で言った。
「何?ほんとうか?」
「回りを見ないで、そのまま普通にしていてください。」
「わかった。」
その視線は、少しづつ間合いを縮めてくる。これは明らかに襲うつもりだろう。でも、オレたちは殺されない。どういうわけだか、この江戸の時代では、傷すらできない。

 その時、矢が飛んできた。それと同時に歓声が上がり、数人の連中が襲ってきた。山賊なんだろう。でも、オレたちはひるまない。そんじょそこらの連中より、ガタイがでかい。久しぶりの乱闘になった。相手は刃物を持って襲ってきたが、痛くも痒くもない。あっという間に、形勢逆転だ。

「てめ~ら、どうなってんだ。」
「なんで死なん?」
「そんなん、知るか!」
木の棒でぶん殴ったもんだから、相手は気絶する。ひっくり返った連中が増え、相手は一人だけになった。
「さあ、どうする?襲った相手が悪かったな。」
「くっそ~。」
「山賊だろ?オレたちを襲っても何もないぜ。」
「これから、狩りするところだからな。」
「うう。」
悔しそうにしていたが、山賊の仲間が気絶してるので、一人では退散しようがない。
「どうにでも、しやがれ。」


(つづく)
posted by ツッカー at 19:33| 兵庫 ☀| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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