2019年07月08日

小説 「よく眠れた朝には」 第三十三話(最終回)

 実家に向かう日、子供たちは大はしゃぎだった。初めて電車に乗る、初めて新幹線に乗る、そうこうしているうちに、実家に着いた。出迎えてくれたお袋は、いったい誰を連れてきたの?という顔をしていたが、多恵が手を握って挨拶すると、とたんに記憶がよみがえったようで、多恵さん、多恵さんと抱きしめて喜んでいた。

「で、多恵さん、この子達は?」
「慎二さんのお子様です。」
「ええっ、だって、この前結婚したばかりでしょ?」
「それからもうだいぶ経つんですよ。」
「いったいどうなっているの?」
「お袋、くわしくは親父と一緒の時に話するよ。」

 親父、お袋の前で、改めてオレの家族を紹介した。
「改めて、オレの家族を紹介するよ。」
「妻の多恵と長女の恵美7歳、次女の歩美6歳、先日、多恵を紹介したばかりなのに、今度はこの子たちが存在しているんだかね。」
「オレはもう42歳だ。江戸での生活は、また5年、2年とプラスされたんだ。20歳だった多恵も、今は30歳になったんだ。不思議なもんだろ?今の世界ではそんなに経ってないのにね。」
「前に、親父に言ったよね、もしかしたら、親父の年を追い越して帰ってくるかもしれないって。」
「オレにもいったいどうして、こんなことになっていくのかわからない。」
「オレは江戸でも、現代でもどちらの生活でも、多恵がそばにいるなら全然平気だ。」
「でもね、恵美はね、こちらの生活の方がいい。ご飯、いっぱい食べれるもん。」
子供目線で、恵美がそう言った。
「その通りだね。暖かい部屋、暖かい服、暖かい布団、暖かい食事・・・確かにこちらの方が何倍もいいのかも知れない。」

「歩美もこっちのほうがいい。」
子供はかわいいことを言う。
「ただ、今度ばかりは問題がなかったとは言えないんだ。」
「2年前にオレは多恵を亡くした。」
「えっ!?どういうことなの?」
お袋は口を挟んだ。
「オレたちの住む町を敵国の侍が襲ってきたんだ。」
「ちょうどオレは狩りに出ていて、いなかったんだが、その間に侍は多恵を焼き、切り殺したんだ。」
「でも、ここにいるじゃない。」
「江戸の世界では、多恵は亡くなって、長屋ごと焼かれて、土葬されたんだ。」
「でも、こちらへ帰ったとき、多恵は寸でのところで、現代に飛ばされていたことがわかった。」
「オレも子供たちも、それから2年後に同じように侍に切り殺されたところで、現代に帰ってきたんだ。」
「そこに多恵がいた。多恵の話では、多恵がこの世界に来て、翌日にオレたちが来たとのことなんだ。」

 そこまで、黙って聞いていた親父がこう言った。
「だけど、前に確か、江戸時代では怪我しないって言ってなかったか?」
「だが、今度の江戸ではそうではなかったんだ。だから、大怪我とか、死ぬようなことにはならないように、結構注意してたんだ。」
「本当に不思議な話だな。私たちにとっては、かわいい孫が二人もできてとってもうれしいのだが、慎二と多恵さんが亡くなるというような危険な時代には行ってほしくない。」
「でも、こればっかりはどうしようもない。どんな人生が待ち受けているのか、わからないんだ。」

「恵美ちゃんも、歩美ちゃんも、こちらにいらっしゃい。」
お袋は二人を呼び寄せ、抱きしめると、
「あっちにおいしいもんあるよ。おばあちゃんと食べに行こう。」
「ほんと!行く。」
子供たちは、口々にそう言って、お袋について行った。

「実は、慎二に話していないことがある。」
親父は静かに口を開いた。
「私も過去の世界へ行ったことがある。」

「えっ!?」
「今まで黙っていて、申し訳ない。」
「我が家は代々、家族のうち、誰かが過去に行く能力があるようなのだ。」
「つまり、私だけではなく、おじいさんの代でも同じことが起こっている。」
「そんな話、初めて聞いたよ。」
「孝一には、そんなことが起こらなかったから黙っていたが、おまえがそんなに何度も過去に行くことになるとは思わなかったから。」
「代々、そんなことがあったなんて。」
「そうだ。でも、そんなことが起こらなかった代もあったようなのだ。」
「親父はいつ頃、過去に行ったん?」
「私は丁度20歳の頃、まさに戦国時代へ行ってきた。」
「そこで何年くらいいたの?」
「5年近く行ってたよ。でも、こちらに帰ってきたときは、1日しか経っていなかった。」
「やはり、同じなんだ。何回、行ったの?」
「2回だ。1回目はどういうわけだか、キズを負うことはなかったが、2回目はキズを負うようになった。だが、おまえのように3回もいくことはなかったよ。」
「そうだったのか。」

 オレはふと思った。
「もしかして、お袋は・・・」
「おまえの思っている通りだ。おかあさんは戦国時代から来たんだよ。」
「そうだったのか。どうりで、多恵に優しいと思ったよ。」
「お母様も、私と同じなんですか?」
多恵も驚いていた。
「そうよ。だから、よく分かるのよ。」
「そうだったのですか!」

 ということは、オレは現代人と過去人との混血ということになる。もしかして、親父もか?
「もしかして、おじいさん夫婦もそうだったんですか?」
「ああ、その通りだ。」

 なんということだ。オレの家族は代々、過去の女性と結婚していたのだ。だけど、それでよく成り立っているものだ。この世はどうなっているんだろう。この世には、不可解なことがないわけじゃないから、これも不可解なこととして、受け入れていく必要があるんだろうか。そのうち、オレの子孫もまた、同じような運命をたどっていくのかも知れない。

 だけど、過去と現代を行ったり来たりしたオレは・・・多恵は・・・いったい何歳になるんだろう?今の西暦通りなら、オレはまだ28歳ということになる。本当は40年以上、生きてきたはずだけど、不思議と鏡に映った自分は、そんな年には見えない。多恵だってそうだ。でも、子供たちは年相応だ。でも、恵美の年を考えれば、オレが21歳の時の子供になる。でもまあ、そんなことはあんまり気にしないでおこう。世の中はいつでも不可解なことが多いのだから。

(おわり)
posted by ツッカー at 19:43| 兵庫 ☁| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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