2019年08月21日

変わりゆく未来 第25話

 私は貴志に言われて、再び、会社へ出社することになった。ほとんど、相談役的な役割だ。でも、これまでの私を知っている社員は私に近寄らない。貴志同様、かなり口うるさかったようだ。だから、誰も近寄ってこない。当然、暇になる。それなら、家に帰った方がいい。

 まあ、代表の貴志の依頼だから、仕方がない。会長室でのんびりしてるか。と思っていたのだが、私への面会が割と多い。私より、貴志へと思うのだが、昔ながらの方は私の方へくる。

 そんなこんなで暇だと思っていたのだが、結構忙しい。食事にも付き合わされる。我が社への依頼はすべて、貴志へと振った。私は何の権限もないということにして。

 空いている時間は、適当に部門を訪問した。気分であちこちを回った。でも、私がくると明らかに緊張が漂う。とても気を使われる。まあ、しかたないことかも知れない。いつしか、私が各部門を散策することに苦情が来るようになった。

「会長は勝手にあちこちを歩くな!」
と、貴志からもきつく言い渡された。
これじゃ、やっぱり、家にいた方がいいみたいだ。結局、必要な時に呼んでくれということで、私は家にいることにした。

「やっぱり、戻ってきたよ。」
「今のあなたにはそのほうがいいみたいですね。」
「君といるほうが居心地がいいしね。」
「あら、ほんとうかしら?うそでもうれしいかも。」
「ほんとうだとも。」
ということで、また、妻と一緒にショッピングにいったり、食事にいったり、旅行にいったり、のんびりさせてもらった。

 初めは浮浪者でどうなることかとおもったけど、こんなにまったり過ごるなら、これもありだと思った。

 ディナーの帰り、突然、めまいがした。瞬間、意識が飛んだ。ほんの一瞬だったと思う。だが、次の瞬間、からだが・・・痛い。あちこち、痛いのだ。どうなっているんだと思ったときに、私は移動したことに気が付いた。

 視線がやけに低い。私は・・・子供になった。

 母らしき、若い、けばい女性に手を引かれている。手の引き方が・・・結構、乱暴だ。私はからだのあちこちが痛いから、そんなに早く歩けない。なのに、強引に引っ張られる。とても痛いのだ。

「早く歩けよ。」
そう言って、手を引っ張る。途中何度も転びそうになった。痛くて涙がでる。でも、歯を食いしばった。家はアパートの2階。階段がとても辛い。なのに、手が抜けそうな勢いで引っ張られる。叫び声をあげたくなるくらい痛い。一体、私のこのからだはどうなっているんだろう。

 玄関に入ると、思いっきり蹴られた。あまりの痛さに、のたうちまわった。声もでない。この子が何をしたんだ?からだをまわして、上向きになったときに、恐ろしいものを見た。若い男が私を見てニヤリと笑ったんだ。瞬間、からだが飛んだ。激痛で意識が飛びそうになった。もう、死ぬかもしれない。

 「虐待」!

 私は何歳児なんだろう。痛みばかりでわからなかったが、かなりの空腹だった。もう立ってられない。
「喉、乾いてるんだろう?」
男はそう言って、ストローのついた水筒をもってきた。私はむしゃぶりついた。喉もカラカラだったのだ。だが、すぐに吐き出した。異様に辛い。吐き出したものに赤いものが入っていた。辛子だ。男はそばで腹を抱えて笑っている。もうしゃべれない。

「やめな!本当に死ぬよ。」
「だけど、笑うぜ。あの恰好!」

 子供は両親を選べない。こんな親の子になった子供は、本当に死ぬしかないのだろう。この子は生まれてきてずっと、こんな虐待を受けてきたのだ。裸になれば、虐待の印がそこらに付いているんだろう。

「じゃ、そろそろ食事に行こうか。」
「了解。」
そう言って、ふたりは出て行った。私は動けない。痛みと、痛みに耐えてきた疲労感で気を失った。

「ボキッ!」
その音と激痛で目が覚めた。男に蹴られたか、殴られたか、肋骨が痛い。彼らが帰ってきたのだ。
「いつまでも寝てんじゃねーよ。」
「これ、食いな。」
女が菓子パンとジュースを置いてくれた。でも、その場所へ行けない。動くと、激痛が走る。

「早く、いこうぜ。」
そう言って、ふたりはまた、出かけていった。あれを食べないと、本当に死ぬ。そう思って、懸命に這った。それを手に取ったら、涙があふれた。たぶん、気が狂う。こんなんだったら死にたいと、子供はだれでも思うだろう。

 私は少しづつ、少しづつパンを食べ、ジュースを飲んだ。これが生きる糧なんだ。この子にとっての糧なんだ。そう思うと、また泣けてきた。

「おはようございます。どなたかいらっしゃいますか?」
女の人の声がした。だけど、私の声はつぶれて出ない。玄関のドアまでも行けない。
「いませんか?」
いるんだ。ここにいるんだ。助けてほしい。でも、それを伝えられない。

 しばらくして、その女の人は去っていった。私はここから逃げ出さないと、本当に死ぬかもしれない。この子に移動したことより、今はなんとか逃げなくてはの気持ちでいっぱいだった。だが、ちょっとお腹がましになってウトウト眠ってしまった。

「ぎゃっ!」
激痛で目覚めた。ふたりが私の目の前にいた。外はもう、真っ暗だった。
「大丈夫。生きてるよん。」
「そういえば、ちょっと匂うからお風呂入れてやってよ。」
「え~、また、オレかよ。」
「それくらいいいでしょ。男同士なんだから。」
「わかったよ。おい、風呂だとよ。」

 私はなんとなく恐怖を感じていた。でも、脇腹が痛い。そっちの痛みで涙がでた。やがて、お風呂に入る用意ができたようで、私は無理やり、服を脱がされた。
「おい、これ見ろよ。まずくねぇか。」
「見られなかったら、大丈夫よ。」
「おまえも怖い母親だぜ。」
「あんただってでしょ。」
風呂の鏡に映った自分の姿は、アザだらけ。カサブタも多い。

 冷たっ!いくらなんでも、冷たすぎる冷水をかけられた。もう、声もでない。
「さあ、洗ってやるから、しっかり立ってろよ。」
もう無茶苦茶だ。頭から全身をボディソープでこすられた。カサブタのところが痛い。多分、折れている肋骨のところが痛い。目に泡が入って痛い。むりやり、口の中にまで入れてくる。死にそうだ。こんなんだったら、風呂なんか入らなくていい。

 「ぎゃっ!」
 今度は沸いた風呂の上澄みの熱いところをかけられた。私は飛び上がった。男は面白そうに笑っている。
「こいつ、面白い踊り、しよんな。ははは。」
早く、この地獄が終わってほしい。そう願っていた。だが、地獄は続いた。

「さあ、風呂、入ろっか。」
そう言うと、私をつかんで、一緒に風呂に入った。あちこちがしみて、痛い。激痛だ。歯を食いしばって耐えた。
「おまえ、なんて顔してんだよ。」
そういうと、いきなり、目の前がお湯に変わった。私は、風呂に沈められたのだ。息が続かない。痛さより、苦しさの方が勝った。早く、息がしたい。だが、ずっと風呂に沈められたままだ。もう、無理・・・。私は死を覚悟した。

「まだ、死ぬのは早いよん。」
死ぬか生きるかのギリギリで、引き上げられた。
「ごほっ、ごほっ。」
私はお湯を吐き出した。もう無理、これでは性格もゆがんでしまう。誰も信じられなくなる。虐待を受けた子供たちは、そんな心境なんだろう。そう思う間もなく、また、お湯攻めを受けた。息ができない。私は死ぬしかない。気を失った。

 べしべし、叩かれて目を覚ました。
「おお、生きとった。」
「あんた、無茶しすぎよ。」
「服、着せたら、そこらにほおっておいて。」
「了解。」

 彼らはまた、出て行った。こんな生活がずっと続くのだろうか?性格がゆがまない子なんていないだろう。私はまた、気を失った。
posted by ツッカー at 18:27| 兵庫 ☁| Comment(0) | 小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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